感謝される人生~先生と生徒の絆20年

感謝される人生 コラム

執筆者:河浜一也

 私の親友にYさんという方がいます。広島で会社の代表の代表をされているYさんから、数年前に心温まる文章を共有していただきました。Yさんは、若者たちの夢の実現をサポートする素晴らしい方で、留学の斡旋や日本と海外の高校の姉妹校提携、海外修学旅行のコーディネートなど、教育分野で幅広く活躍されています。さらに、FIFA(国際サッカー連盟)のオセアニア大陸担当代理人として、スポーツを通じた国際交流にも尽力されています。長文ではありますが、その感動的な内容をここでご紹介させていただきたいと思います。

 ある小学校の先生が5年生の担任になった時、クラスの中に一人、特に気になる少年がいました。服装は不潔で、身なりもだらしなく、どうしても好意的な感情を持てない生徒でした。先生は中間記録を書く際、その少年の否定的な面ばかりを記入するようになっていました。
 ある日、偶然にもその少年の1年生からの記録に目を通す機会がありました。そこには驚くべき記述がありました。「明るく活発で友好的、誰に対しても親切な態度で接する。学業成績も優秀で、将来が非常に期待される生徒である」と記されていたのです。先生は最初、これは何かの間違いではないかと疑いました。別の生徒の記録が紛れ込んでいるのではないかと考えたほどでした。
 2年生の記録には、家庭環境の変化が記されていました。「母親の病気により家事の手伝いを余儀なくされ、そのため時々遅刻がある。しかし、懸命に努力している」という記述でした。3年生になると状況は更に深刻化していました。「母親の病状が悪化し、夜間の看病で疲労が蓄積。そのため、授業中に居眠りをすることがある」と書かれ、その年の後半には「母親死去。強い喪失感と深い悲しみの中にある」という痛ましい記録が残されていました。
4年生の記録には、家庭の崩壊が克明に記されていました。「父親が生きる意欲を失い、アルコール依存症となる。子どもへの暴力行為が懸念される」。これらの記録を読んだ先生の胸には、鋭い痛みが走りました。それまで「問題児」と決めつけていた少年が、突如として深い悲しみと苦難を必死に生き抜いている一人の人間として、先生の目の前に立ち現れてきたのです。これは先生にとって、まさに目から鱗が落ちる瞬間となりました。
 その日の放課後、先生は初めて積極的に少年に声をかけました。「先生は夕方まで教室で仕事をしているから、よかったら一緒に勉強していかない? 分からないところがあったら、何でも教えてあげるからね」。この言葉に、少年は初めて心からの笑顔を見せました。それ以来、少年は毎日放課後、自分の机で熱心に予習復習に取り組むようになりました。授業中に少年が初めて自信を持って手を挙げた時、先生の心には大きな喜びが湧き上がりました。少年の中に、確実に自信が芽生え始めていたのです。
 クリスマスの午後のことでした。少年は小さな包みを恥ずかしそうに先生の胸に押しつけると、すぐに教室から走り去っていきました。後で開けてみると、それは一本の香水でした。きっと亡くなった母親が愛用していたものに違いありません。先生はその香水を一滴だけつけ、夕暮れ時に少年の家を訪ねました。雑然とした部屋で一人寂しく本を読んでいた少年は、その香りに気づくと飛び上がるように立ち上がり、先生の胸に顔を埋めて感動の声を上げました。
「ああ、お母さんの匂い! 今日は僕にとって最高のクリスマスです!」
 6年生になり、先生は別のクラスの担任となりましたが、少年との絆は途切れることはありませんでした。卒業式の日、少年から一枚のカードが届きました。そこには真っ直ぐな文字で書かれていました。「先生は僕にとって、お母さんのような存在です。そして今まで出会った中で最も素晴らしい先生でした」
 それから6年の月日が流れ、再びカードが届きました。「明日は高校の卒業式です。5年生の時に先生に出会えたことは、僕の人生最大の幸せでした。先生のおかげで学ぶ意欲を取り戻し、奨学金を得て医学部への進学が決まりました」
 さらに10年後、一通のカードが届きました。そこには先生との出会いへの深い感謝の言葉と共に、かつての辛い経験が今の自分を支えているという心情が綴られていました。「父親から受けた暴力の経験があるからこそ、患者さんの痛みが理解できる医師になれると信じています」と記され、最後にこう締めくくられていました。「僕は今でもよく5年生の時の先生のことを思い出します。どん底に落ちかけていた僕を救ってくださった先生は、私にとって神様のような存在です。医師となった今でも、5年生の担任の先生こそが、私の人生で最高の恩師です」
 そしてさらに1年後、一通の特別な招待状が届きました。それは彼の結婚式の案内状でした。そこには一行、心のこもった言葉が添えられていました。「結婚式当日、母の席に座っていただけませんか」

 Yさんがこの感動的な実話をどのようなルートで知ることになったのかは、詳しい経緯を存じ上げません。おそらく、教育に携わる者たちへの励ましとして、私たち教育者や同僚たちへのエールとして、この物語を共有してくださったのだと考えています。
 Yさんは私にとって、長年の付き合いの中で深い信頼関係を築いてきた、誠実で素晴らしい友人です。その正直さと真摯な人柄に触れ、私は彼に特別な信頼を寄せています。もし私が先に他界することになった場合は、最後の別れの場で弔辞を読んでほしいと依頼してあるほどです。今では互いの人生を支え合う、かけがえのない生涯の友となっています。
 この心温まる物語を共有してくださったYさんの手紙は、印象的な言葉で結ばれていました。「私たちに残された貴重な時間を、どのように有意義に使わせていただこうか。まだ私たちには使える時間が与えられていることに感謝しながら、心からメリークリスマス!」
 この物語を読まれた皆様の今後の人生が、周りの方々から心から感謝される、輝かしい日々となりますように。そして、そのような人生を築くための努力を惜しまず、充実した日々を送ることができますように。私からも心を込めて―メリークリスマス!

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